2012年 05月 26日
剣の女王と烙印の仔 |
剣の女王と烙印の仔〈1〉 (MF文庫J)
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杉井 光
メディアファクトリー
売り上げランキング: 485,478
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杉井光にシリアスファンタジーなんて一番合ってないジャンルだろう…と思いきや、意外に読める話に仕上げているから相変わらず器用なものだ。スケールが壮大でありながら軽く読みやすい文章でものすごい早い展開で実に都合の良いクライマックスの興奮と女の子達の萌えを描いているので「重厚なのにするする読めてあっという間にお腹いっぱい」という実にラノベ的な旨みを享受できる反面、超高速で変化していく世界情勢及び主人公・ヒロインの関係性に文章的理解はできても感情が全く追いつかない。自分の死を予知できるヒロインの設定はまあいいのだが主人公の「獣の子だから知らないうちに命を喰らってしまう」という設定がよくわからんしそれがヒロインと敵として出会っておいてほんの数ページのあっという間に運命共同体のデレ関係に180度変化する理由と言われても「はあ、そうですか」としか言葉が出てこずちっともヒロインに萌えられなかった。萌えキャラとしてはヒロインよりも指揮官の子の方が圧倒的に立っていた、この脇役が魅力的過ぎてメインキャラを食い殺す傾向は杉井作品のどちらかというと悪い個性であると言えよう。その他の設定も強引で理不尽なところばかりが目に付いた、ご都合主義的であることにケチをつけるつもりはないが説得力が弱すぎるからいろんな組織がいろんな思惑でやってることが全部茶番に見えてしまうのだ。しかし最初にも言ったように物語のスケールはものすごく壮大であり、出来はともかくとして「大きな歴史の渦の中で各自が各自の思惑で動いて作られる物語」のワクワク感はちゃんとあるし例えご都合主義全開だとしても強い意志で定められた運命を断ち切るクライマックスの展開には興奮させられ目を離すことができなかった。バトルシーンも結構熱く描けていて面白い。ヒロインとの関係性はあまりに早急に事が進みすぎて置いてけぼり感満載だが、まあラノベだから面倒な経緯は省略したと割り切ればナシと切って捨てるほどのことではないかもしれない。萌えは他の女の子でも充分だし。何より杉井の最大唯一の武器だと思っていた掛け合い漫才ギャグがほとんど有効に活かせないガチファンタジーというフィールドで、危なっかしいながらもしっかり作品としてまとめ上げたその器用さに驚かされ敬服させられた。二巻以降を追いたいとまでは思わないけど、本格ファンタジーが好きな人なら手に取ってみるのも悪くはないかもしれない。
<個人的評価>☆☆☆★
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by yukky_kamakura
| 2012-05-26 23:39
| ラノベ