雪男の読書記録

神様のメモ帳 8

神様のメモ帳〈8〉 (電撃文庫)

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杉井 光
アスキー・メディアワークス (2011-09-10)
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　前半1/3が麻雀対決、残り2/3が1巻の麻薬騒動の決着編という構成のカオスさはいつもの「グダグダハードボイルドもどき」という有吉的仇名が相応しい神メモシリーズと趣を異にしていて少々違和感はあったが、短編二つを切らずに繋いだと解釈すれば先が読めず退屈させない作りになっているという意味では良く出来ている。前半パートは麻雀を全く嗜まない人間には厳しいかもしれないが、初心者にわからないような書き方はされていないし麻雀好きにはとても面白く読める。後半は謎の黒幕シュシュリの正体は、というサスペンス仕立てになっていて例によって調査の過程や結末はショボいがいつもより尺が短い分サスペンスの旨みが凝縮されていて最後まで一気に読ませるだけの切れ味がある。短い中に四代目との確執と和解という見どころを盛り込んでいるところも上手いし、そして何より一巻最初のヒロイン彩夏の萌えが久しぶりに帰ってきたのが嬉しい。割を食ってアリスの影が少し薄くなってしまっているような気がしなくもないが、ここ最近はアリスの萌えで何とか持っているような巻が続いていたのでここに来てサブキャラ達で話を面白く盛り上げることに成功しているのはとても良い傾向であると言えよう。やはり神メモは短編形式が合っているとさらに確信した次第。アニメがつまんなかったのは残念だったなあ。

＜個人的評価＞☆☆☆★

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 9

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 9 (電撃文庫 ふ 8-14)

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伏見 つかさ
アスキーメディアワークス (2011-09-10)
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　サブキャラ達の一人称視点で綴られる外伝的短編集。読む前にその内容を知った時は「俺妹は主人公一人称の語りかけ文体だからこそ、妹が何を考えているのか想像でしかつかめないからこそいいんじゃねーか！　妹一人称なんてやったら興醒めもいいとこだろ！」とぷりぷり怒ったものだが、実際読んでみると桐乃の一人称は違和感なく自然に入ってきたし、兄に対する感情という核心部分を上手くはぐらかしつつも萌え萌えに仕上げているのはさすが、現代ラノベの最先端人気作の一つと呼ばれるだけのことはある貫禄を感じた。主人公の目というフィルターを通さないことで黒猫や瀬菜、あやせや加奈子といった個性的なサブキャラ達の魅力がまた別な側面からほのぼのと描けていたのはマンネリ回避という意味合いからもとても良かったと思う、前巻がどシリアスな恋愛編だっただけ余計に。全体的にギャグはおとなしめだったが、瀬菜の腐女子ネタの辺りは悔しいが笑ってしまった。しかし欲を言えば沙織の回とあやせの回の後半とラストの桐乃のドレス回辺りが話としてつまらなかった、短編集はつまらない短編が一本でもあると損をした気分になるのが難点だ。この辺りの精度をもっと高めていただかないと、現代ラノベ界の代表作の地位もいつ揺らぐかわからない。次巻以降のさらなる成長に期待する。

＜個人的評価＞☆☆☆★

葉桜が来た夏

葉桜が来た夏 (電撃文庫)

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夏海 公司
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　「なれる！SE」シリーズが面白いのでデビュー作ももしかしたら結構いけるのかも、と期待して読んでみたが…うん、まあ普通。美少女異星人との共棲を強いられた主人公が最初は反目するが色々あって種族和解の精神に目覚める、という基本ストーリーはありきたりかつ中二病的でそれほど大したことはないのだが、異星人アポストリの能力や人間との一時的休戦に至るまでの設定、仮の平和の裏で蠢く両者の思惑といった描写はとても上手く中二的世界観にしっかりとした説得力がある。このリアリティの演出力は「なれる！SE」シリーズにも引き継がれている作者最大の長所であるといえよう。ただ尺の制限されている投稿作だからある程度はしょうがないとはいえ、主人公とヒロインの反目→和解に至るまでの親睦イベントが少なすぎていまいち感情移入できずラストの展開がご都合主義的に感じられてしまう。なまじサブキャラの異星人たちが個性的に描けているだけ余計に平凡な性格のヒロインが埋没してしまい魅力がちっとも伝わってこなかったのも痛かった。もう少し親睦イベントを書き下ろすか、いっそ世界観の描写を一部削るかすればもっと良い話になったのではないだろうか。しかし削るにはもったいないくらい世界観設定はよくできているしそれを魅せる文章のセンスもかなり高いものがある、「選考委員奨励賞」は過小評価なんじゃないかと個人的には思う。最近の電撃大賞の受賞作のクソさを鑑みれば金賞でも別に異論はない。将来性は十分に感じられる作品だし、実際いま結果を出してるしね。

＜個人的評価＞☆☆☆

なれる! SE 5

なれる!SE (5) ステップ・バイ・ステップ?カスタマーエンジニア (電撃文庫)

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夏海 公司
アスキー・メディアワークス (2011-09-10)
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　前回４巻でPMなんて新人離れした仕事をやってしまったものだから５巻はどこまで飛躍してしまうのか、と思ったら今回はCE編、日本各地を無理なスケジュールで点々と回っての現場設置作業トラブルあるあるという原点回帰な内容になっており良い意味で予想を裏切ってくれた。毎度のことながらトラブルあるあるの専門的な説明部分がリアルでありながら素人にもわかりやすく笑えるように工夫されて書かれており、その完成度の高さに唸らされる。特に今回は無駄に待たされるとか移動日程が無茶とか一般の会社員にも馴染みがある種類の悲哀ばかりなので、より親しみを持って読める人が多いのではないかと思う。梢や妹といったサブキャラの萌えシーンは若干蛇足に感じはしたが、背筋が縮まっていくようなトラブルラッシュ話の合間の清涼剤としては機能していたしロリ上司・室見とのラブコメシーンはほのぼのと心が和んだ。そこからクライマックスの大トラブル、専門用語連発のマニアックな展開に一気にギアを上げていく展開構成も実に見事。少々マニアックすぎて解決方法の鮮やかさがいまいち伝わりにくいのと締めが淡白すぎるのが気にはなったが、まあこのシリーズの５巻目なんて手にしているのは元々ある程度ネットワーク関係の知識は持っている人間だけだろうしこれくらいマニアック寄りな方がむしろ良いのかもしれない。今後の続刊にも大いに期待の持てる良巻であった。

＜個人的評価＞☆☆☆☆

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

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渡 航
小学館 (2011-03-18)
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　2010以降ラノベのトレンドになんとなくなりつつある「超毒舌ヒロインの罵倒芸もの」のサンプル的失敗作。いや超毒舌ヒロインの罵倒芸に限って言えば結構面白いのだ、超絶的に可愛い挿絵の補助もあって萌えに関しても申し分無かった。が、売れてるラノベの売れ線要素を調子に乗って拾いすぎて結果どれも「なんかどっかで読んだことあるな」というデジャブ感が次々襲ってくるだけで面白さが出てくる前に次の章が来てしまうという消化不良な作品になってしまっている。特に邪気眼中二病デブキャラの章は完全に蛇足だった、こいつの章が入ったせいで元々薄いストーリーの流れがグダグダを通り越して消滅してしまったしギャグの指向性もとっちらかってしまい以後のネタが笑えなくなってしまった。ただそれでも先行類似作「僕は友達が少ない」のクソスベリギャグと比べたら幾分センスはあるし、ヒロインと主人公の掛け合い漫才劇では何カ所かクスリとさせられてしまうシーンがあったことは認めざるを得ない。毒舌芸とぼっち自虐芸に焦点を絞り込み、余計なキャラや笑いの要素を無理に盛り込もうとしなければまだ復活の目はなくもないだろう。挿絵も可愛いのでしばらく経過観察して良さそうなら続刊を買ってやらんこともない、ってとこかな。

＜個人的評価＞☆☆☆

青春ラリアット!!

青春ラリアット!! (電撃文庫)

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蝉川 タカマル
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　2010以降ラノベのトレンドになんとなくなりつつある「超毒舌ヒロインの罵倒芸もの」のサンプル的佳作。好きな女の子を助けるため蔭ながら身体を張ってあれこれ頑張るというストーリーは青春ラノベのテンプレ通りでありそこから得られるものは何もないのだが、ストーリーが単純明快であるからこそヒロインの毒舌芸と突っ込む主人公との掛け合い漫才劇がするするっと気楽に読めて笑える。メインの登場人物を三人に絞り込んだ潔さと安易に萌えに話を転がさずコメディに徹しきった姿勢は個人的には評価したいと思う、売れることを考えるならもっと色気方面のサービスを盛り込むべきだったろうなとは思ったが。ラストのバトルは幼稚な状況設定に若干冷めたが、まあラノベの対象年齢を考えればこれはこれで幼稚なりに綺麗にまとまっているし、若い子に小説媒体に興味を持ってもらう入門書としてはこれでいいのかもしれない。猪木のマネを始めとするプロレスネタのつまらなさとか月島のキャラの微妙な立って無さとかケチをつけたくなる要素もいっぱいある荒削りな作品ではあるが、それもまた青春ものとしてのパワーの一要素であると強引に解釈しておこう。

＜個人的評価＞☆☆☆★

のうりん

のうりん (GA文庫)

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白鳥 士郎
ソフトバンククリエイティブ
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　農業高校という舞台はその日常そのものがすでに充分面白いので、その日常がリアルに描けているというだけで少なくとも「読んで損した」という気分にはまずならない。さすが一年取材したというだけのことはある、学校行事の一つ一つの描写を読んでいるだけで土や草の生温い匂いがすぐそこに漂ってくるようだ。だからメインテーマは「農業高校の日常紹介」に留めておいて、ギャグは調味料程度にしておいてくれれば大化けできる可能性があった作品なのだが…残念なことに糞ほども面白くないネタをフォントいじり特大文字で乱発しまくってくれているおかげで作品そのものが地盤沈下で窒息死してしまっている。別にフォントいじりが悪いとまでは言わない、ここぞというポイントを絞り込んで演出として使ってくれるなら読書に慣れていないティーン層にも読みやすく親しみやすいという効果はあるだろう、しかしこの作品はいじりまくっている上にネタがごく一部の２ちゃんねらやキモオタしかわからないようなパロであったり下品なだけで萌えの情緒も何も無いエロだったりで空回り感が半端なく、ひょっとしたらいじってなければそこそこ面白かったのかもしれないネタまでも苛立ちしか感じられないようになってしまう。食べ物で説教する美味しんぼみたいなラストの展開は悪くなかったのだが、そこに至るまでの悪ふざけが過ぎたせいか急なシリアスに違和感を残したまま終わってしまって結局最後は「最初は面白そうに思えたのに、残念」という結論に落ち着いてしまった、そんな作品。フォントいじり問題なし、オタネタパロネタエロネタバッチ来いな人ならたぶん楽しめるとは思うが一つでも合わない要素があるなら手は出さない方が無難かも。農業高校の日常を覗き見たいだけなら荒川弘の漫画「銀の匙」でも読むことをオススメします。

＜個人的評価＞☆☆☆

僕の妹は漢字が読める

僕の妹は漢字が読める (HJ文庫)

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かじいたかし
ホビージャパン (2011-06-30)
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　もしラノベ文体が文学の主流になったとしたら、という近未来ifものコメディで設定の着眼点はすごく良い。ひらがなだけの萌え文体を大袈裟に持て囃す主人公とツッコミを入れる妹のやりとりがコミカルでありながら、「言葉に対する敬意を失えばこんな社会になってもおかしくないんですよ」というディストピア警告的風刺が効いている序盤の展開は思わず唸ってしまうほど素晴らしかった。妹ネタだけで押しまくるギャグの幅の無さにはやや辟易させられたものの、回文とか自妹とかところどころには笑える箇所もあり設定とギャグに関しては充分合格点をあげられる作品なのだが…現代にタイムスリップする中盤以降のストーリーがあまりにもつまらないのが本当にもったいない。文学が失われた未来で「兄が読めない漢字を妹が読める」という設定がこの作品の最大の魅力なのに、その妹を単なるツンデレツッコミ役としてしか活かせずグダグダとした展開が最後まで続き大した山場もないまま達成感もなく終わってしまうのは作者の実力不足以外の何物でもない。ストーリーの起承転結という基本から勉強し直してこないことにはおそらく一巻の奇抜さ新鮮さに慣れてしまった後の二巻以降は炭酸の抜けたコーラのごとく酷い読み味の駄作ができあがること間違いなしだ、設定勝ちの一発屋で終わらないでもらうために次作はじっくり時間をかけて練り上げてほしいと思う。評価は「未熟だが野心作である」という点を考慮し少し甘め。

＜個人的評価＞☆☆☆★