雪男の読書記録

なれる! SE 4

なれる!SE 4 誰でもできる？プロジェクト管理 (電撃文庫 な)

posted with amazlet at 14.05.24

夏海 公司
アスキー・メディアワークス (2011-05-10)
売り上げランキング: 32,450

Amazon.co.jpで詳細を見る

　今回は炎上寸前の問題案件のPM（プロジェクトマネージメント）を成り行きでやらされてさあどうしよう、という展開で「業界覗き見モノ」としてはいつも通りに専門的でありながらわかりやすく、最後まで興味が途切れることなく読めた＝面白かった、ということで合格点に値する出来ではあった。が話の基本構成が前三巻までと同じなので手堅く安心して読める反面、ワンパターンで途中展開が読めて少々飽きを感じてしまうのもシリーズものの難しいところ。ド素人の新入社員がPMやって一社を除いた全企業が素直についてくるってのはいくらラノベとはいえさすがにリアリティがなさ過ぎるし、オチの逆転手段が三巻と同じで意外性が全くなかったのにはがっかりさせられた。天才美少女SE・室見の活躍がまた見られなかったことは残念だったが、代わりに今回は普段の生活など素性が少しずつ露わになっていくところが萌えたし次巻以降への興味のヒキとしてとても良くできていた、この辺りのバランス感覚の鋭さはもっと評価されていいと思う。室見以外の女キャラにイマイチ魅力がないのがブレイクできない弱点なのかもしれない、もっと強力な萌えキャラを投入するか室見萌え一本に絞り込むかすればさらにもう一段階面白くなれる潜在能力を秘めたシリーズ。次巻以降にも超期待。

＜個人的評価＞☆☆☆★

アトリウムの恋人

アトリウムの恋人 (電撃文庫)

posted with amazlet at 14.05.24

土橋 真二郎
アスキーメディアワークス (2011-05-10)
売り上げランキング: 518,506

Amazon.co.jpで詳細を見る

　土橋作品から「デスゲームによるスリルとサスペンス」を外すとどんな酷いことになるか、を証明するためだけに書かれたような見事な駄作。「仮想世界に囚われた恋人の人格を取り戻す」なんて、インターネットが世に認知されたここ10年20年の間にいったいどれだけ使い古されたかわからないようなネタをガチで話の主軸に持ってくるセンスがまず終わっている。登場人物各位も今までの土橋作品のテンプレ通りで新鮮味が全くなく、しかも本当に必要だったのか微妙なキャラをわんさか入れるものだからさらに一人一人の掘り下げが浅くなってしまっており誰一人として感情移入できない。東京スフィアなる仮想世界の設定は一見凝っているようだが説明が薄く辻褄合わせが杜撰なのでいまいち理解しづらく、終盤のピンチシーンやその後の感動シーンの演出もご都合主義が過ぎて読んでるこっちのテンションはちっとも盛り上がっていかなかった。一冊まるまる読み終わってみればなんとなく「こういうのがやりたかったんだろうなー」という理想像が頭に浮かんではくる、けれど現実は筆力とページ数がまるで追いついていないので読んで損したというより「もどかしい思いをさせやがって」というような怒りを覚える、そんな作品。久しぶりのラノベレーベル復帰作で期待していたのを裏切られたぶん、評価は辛めにしておく。

＜個人的評価＞☆☆

サクラダリセット ５

サクラダリセット５ ＯＮＥ　ＨＡＮＤ　ＥＤＥＮ (角川スニーカー文庫)

posted with amazlet at 14.05.24

河野 裕
角川書店(角川グループパブリッシング) (2011-04-28)
売り上げランキング: 324,111

Amazon.co.jpで詳細を見る

　「５巻からの新章が面白くなかったら切る」と４巻の時点で最後通告を出していた本シリーズだが、それについては撤回と謝罪をさせていただこう。頻出する「意味深っぽく演出したいだけの意味なし気障台詞」がいちいちムカつくとこは変わってないし、キャラ達の行動の動機が弱かったり細部の設定が甘かったり強引だったりするとこは大きなマイナスポイントではある。しかしそんな弱点を補って余りあるほどに「能力によって作られた夢の世界」という今回の舞台はサスペンス性と文学性の両方の旨みを大いに引き出すことができていて面白かった。特に素晴らしかったのは感情を持たず主人公ケイに盲従するだけだったヒロイン、春埼美空の心の内面が実に丁寧に繊細に描かれていたことだ、この巻をもって春埼美空は今までの「無感情ヒロイン＝どうせ綾波レイの劣化コピー」という既成概念を完璧に打ち砕き無感情系萌えの新境地を切り開くことに成功したと言っても過言ではなかろう。春埼の心理描写があまりに見事すぎてそこから先の展開は若干尻すぼみというか、風呂敷を畳むだけでいっぱいいっぱいな印象は受けてしまうがそれでも少なくとも破綻はしていないし次回以降へのヒキも充分に期待できるものだった。ラノベで調子を落としていたシリーズが新章に入って復活するパターンを久しぶりに見れてとても嬉しい、だいたいはどんどんダメになっていってそのまま終わっちゃうからね…

＜個人的評価＞☆☆☆☆

R-15

R-15 ようこそ天才学園へ! (角川スニーカー文庫)

posted with amazlet at 14.05.24

伏見 ひろゆき
角川書店(角川グループパブリッシング)
売り上げランキング: 527,518

Amazon.co.jpで詳細を見る

　よくもまあこんなつまらない作品を臆面もなく発表できたものだ、とむしろ感心するレベルでつまらなかった。まず「ポルノ小説の天才」として天才学園に入ったという設定の主人公の書くポルノ文章が天才の仕事どころかネットの投稿小説以下という時点で本を投げる人間がいても全然おかしくない。数学の天才だから「円修律」とか演技の天才だから「主屋久成樹」とかいちいち特技にこじつけた名前は個人的に非常にむかつくのだがそこはまあティーンズ向けドタバタコメディラノベと捉えることで無理やり納得はしてやろう、しかしその肝心の生徒達の天才ぶりが誰一人として全くこれっぽっちも有効に描かれておらずストーリーに何の面白さも与えていないことについては作者に一言「ド凡才のお前が天才を書こうなんて無理」とでも言ってやらねばとてもじゃないが気が済まない。名前のインパクト以外に何の個性もないキャラがわらわらと出てきてドタバタとどうでもいい小騒動を繰り広げて特に盛り上がりもなく淡々と終わってしまう、クソという以外に評価のしようもない駄作中の駄作。こんなんのアニメ化にGoサインを出した奴は即刻クビにしたほうがいい、もっと他にアニメ化すべき名作は山のようにあるだろうになぜこんな始まる前から両足複雑骨折してるような作品をわざわざ選んでしまうのか…アニメ業界の構造は謎が多い、ほんとに。

＜個人的評価＞☆

半熟作家と“文学少女”な編集者

半熟作家と“文学少女”な編集者 (ファミ通文庫)

posted with amazlet at 14.05.24

野村 美月
エンターブレイン
売り上げランキング: 253,112

Amazon.co.jpで詳細を見る

　とうとう文学少女シリーズもこれで完結、と思うと当然期待するハードルもぐんと高くなるというものだが…この最終巻がそのハードルを越えていたかいなかったかというと、「バーに当たってグラグラ揺れたがギリギリクリア」ってところだろうか。新人作家の目線から編集者になった遠子先輩を描く、というスタイル自体はとても良くできていた、遠子のドジっ子な幼児的カワユさと、優しくて包容力のあるお姉さん的な凛々しさという二面性を上手く同居させた個性的なキャラクターとして完全に確立したと断言してもかまわないくらい魅力的なヒロインに成長したと思う。遠子先輩が長尺で喋るシーンが来るだけでニマニマしてしまえたし、最後の最後に「文学少女」という主題に関わるちょっとしたサプライズがあったのがファンとしてはとても嬉しかった。全体的な雰囲気もコミカルで楽しかったし、外伝としては文句のない出来で読めたこと自体には満足しているのだが…やはりどうしてもこの「文学少女」というラノベ史に残る大傑作シリーズの大トリ、グランドフィナーレを飾ることになる最終巻としては遠子先輩以外の登場人物が薄く軽すぎて「待った」をかけたくなってしまう。半熟作家やその友達どもなどがウザいのはコメディの一環と捉えればまあ我慢はきくし所々面白く読めるところももちろんあるのだが、所詮はこの外伝一冊限りのポッと出のキャラなわけで「こんなどうでもいい奴の話で終わりかよ～」という残念な気持ちが残ったというのが偽らざる本音である。できることならずっと先の未来でもいい、最終巻宣言を撤回しシリーズ継続かもっと完結に相応しい重厚な一冊を書いて欲しいと願うのはきっと僕だけではないはずだ。しかしとりあえずは野村先生には「お疲れ様でした、素晴らしいシリーズをありがとうございました」と素直に頭を下げておこう。何度でも言うけど本当に面白いシリーズなので未読の人は今からでも一巻から読んで下さい、絶対に損はさせませんので。

＜個人的評価＞☆☆☆★